IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
44
日本における統合医療のゆくえ

北陸大学副学長・薬学部長 薬学臨床系教授 光本 泰秀

 2012年度におこなわれた厚生労働省の『「統合医療」のあり方に関する検討会』において「統合医療」を、「近代西洋医学を前提として、これに相補(補完)・代替療法や伝統医学等を組み合わせて更にQOL(Quality of Life:生活の質)を向上させる医療であり、医師主導で行うものであって、場合により多職種が協働して行うもの」と定義づけている1)。それでは日本における統合医療は,どこまで医療現場に浸透していてどこに向かっているのだろうか気になるところである。やはりこういった特定領域の推進には政策が大きく関わってくる。学会,大学などの教育研究機関や医療機関など民間レベルにおける積極的な取り組みが見られるものの,大きな進展に欠かせないのが国の動きである。国内の統合医療に対する国の動きはいつから始まったのか少し振り返ってみたい。

 下記は,2010年1月29日に開催された第174回国会における鳩山内閣総理大臣の施政方針演説の中から,医療に関する部分を抜粋した2)

 社会保障費の抑制や地域の医療現場の軽視によって,国民医療は崩壊寸前です。 これを立て直し,健康な暮らしを支える医療へと再生するため,医師養成数を増やし,診療報酬を十年ぶりにプラス改定します。乳幼児からお年寄りまで,誰もが安心して医療を受けられるよう,その配分も大胆に見直し,救急・産科・小児科などの充実を図ります。患者の皆さんのご負担が重い肝炎治療については,助成対象を拡大し,自己負担限度額を引き下げます。健康寿命を伸ばすとの観点から,統合医療の積極的な推進について検討を進めます。

 これまで度々問題視されている健康寿命についての言及があり,これを伸ばすとの観点から,統合医療の積極的な推進を掲げている。同年1月28日に開催された参議院予算委員会において,当時の長妻厚生労働大臣は,統合医療に関して省内でプロジェクトチームを立ち上げることやその効果を含めた研究に取り組んでいくために10億円以上の予算を計上すると発言している。同予算委員会では,鳩山首相も「統合医療を是非政府としても真剣に検討してこれを推進していきたい」と発言している。これらの発言からは,当時の民主党政権が統合医療の推進に向け並々ならぬ決意を有することが伺える。一方,このような動きに対して敏感に反応したのが,日本医師会である。2010年3月10日に開催された定例記者会見において,「統合医療に対する日本医師会の見解」が公表された3)。詳細は省くが,下記の総括にあるように,日本医師会として政府の動きに対して真っ向から反対の意思を表明した。

 日本では,エビデンスの下で有効性,安全性が確認された医療は公的保険に採り入れられている。漢方薬もしかりである。今,あえて科学的根拠が確立していない統合医療が推進される背景には,混合診療を解禁し,市場原理主義に立ち返ろうという狙いがあるのではないかとの疑念を抱かざるを得ない。日本医師会はこのような流れに強く反対する。

 この日本医師会の見解に対して,当時の日本統合医療学術連合代表の渥美和彦氏は,「日本統合医療学術連合としては,統合医療に関する研究委員会を立ち上げることに関して日本医師会と協力することは,やぶさかではない。そして,その研究成果を元に民主党議員連盟,統合医療を推進する市民会議などと連携して,統合医療に関する公開討論会を開催することを提案したい。」との「日本医師会の“統合医療に対する見解”に付いての反論に関する基本的考え」を2010年3月30日に日本統合医療学会ホームページで公表している4)
 残念ながら統合医療に関する議論は,政権交代後,中断した状態である。根深い問題ではあるが,国が先導して議論を深めながら同分野における研究,教育を支援し,統合医療が患者のための医療として確立していくことを願いたい。厚生労働省においては,2012年3月26日に『「統合医療」の在り方に関する検討会』が開催され,合計5回の検討会での議論を経て2013年2月22日に「これまでの議論の整理」という資料が公表された5)。この資料の最後の部分に「医師等の専門性が臓器別等に細分化されていく中で,患者全体を観る全人的医療の重要性が話題に上がった。」と記されている。全人的医療は,統合医療が目指す方向性の一つであるが,現代医療においてチーム医療を進めていくうえで最も重要視されている考えである。全ての医療の基本はここにあるのでないだろうか。

【参考資料】

1)厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』

2)首相官邸・第174回国会における鳩山内閣総理大臣施政方針演説(2010年1月29日)

3)統合医療に対する日本医師会の見解(2010年3月10日)

4)日本医師会の“統合医療に対する見解”に付いての反論に関する基本的考え(2010年3月30日)

5)厚生労働省・「統合医療」のあり方に関する検討会 これまでの議論の整理について(2013年2月22日)