IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
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食環境や生活習慣はやはり健康維持のキー!

北陸大学副学長・薬学部長 薬学臨床系教授 光本 泰秀

 体にとって必要な栄養素が年齢とともに不足しがちになり,サプリメントでそれを補おうとする考え方は決して間違ってはいない。但し,もともと体内にないものに関しては,注意が必要である。がん患者においては,再発予防や治療効果を期待してサプリメントに頼るケースが少なくない。しかし薬で治療を行っている際にサプリメントなどを摂取する場合は注意が必要である。薬剤師にとって,「相互作用」は注意すべきこととして当然考えるが,一般の人々にとってはその辺りの認識が低い。
 2019年にJournal of Clinical Oncologyで乳がん患者に対する三つの抗がん剤を用いた化学療法の効果検証を目的とした試験で,サプリメントの影響を分析した結果が報告された1)。詳細は省くが,ビタミンB12を化学療法前及び療法中に摂取していた患者は,再発までの期間や生存期間が有意に短くなっていた。また,鉄剤では再発までの期間が短くなっていた。一方,ビタミンAやEなどの抗酸化サプリメントでは再発までの期間や生存期間が短くなる傾向を示した。この報告は,特定の抗がん剤で治療を受けている患者での報告であり,これらの結果から,サプリメントが乳がんの発症率や患者の生存率に影響を与えるとは言い切れない。ただ少なくともこの試験のような条件(治療)下の患者について,サプリメント摂取は注意すべきだろう。
 American Cancer Societyは,「がん予防のための食事療法と運動に関するガイドライン」を2020年に更新した2)。このガイドラインは,食事や運動パターン及びがんのリスクに関する最新の知見を考慮したもので,各分野の専門家がその作成に携わっている。米国と日本とでは,食環境や生活習慣に違いはあるものの,ガイドラインで示された下記の推奨事項は大いに参考になるのではないだろうか。

【個人のための推奨事項】

1.健康的な範囲の体重を維持し,成人期の体重増加を避ける。

2.身体が活動的であること。

・成人は週に150~300分の中強度のもしくは,75~150分の高強度の身体的活動を行う。
・青少年は少なくとも1日1時間の中強度の活動を行う。
・テレビや娯楽動画の視聴など,座りっぱなしになる行動を制限すること。

3.全ての年齢層で健康的な食事パターンを取り入れる。

・健康的な食事により適正な体重を維持する。
・濃い緑,赤,オレンジなど様々な色合いの野菜を摂り,食物繊維が豊富な豆類を摂る。
・果物も様々な色合いのものを丸ごと摂る。
・玄米など全粒穀物を摂る。
・赤身肉や加工肉,加糖飲料,高度な加工食や精製された穀物は避ける。

4.アルコール飲料は飲まないのが最適。

・アルコール飲料は,女性1日1ドリンク,男性は2ドリンクまでとする。

(米国の1ドリンクは,アルコール換算で14 g,小瓶ビール1本程度である。)

 筆者は,健康の維持や病気の予防に「栄養・運動・ストレス緩和」が,重要な3本柱であることを以前から言い続けているが,がん予防のための推奨事項はそれらと重なる。やはり食環境や生活習慣は,健康維持や病気の予防を考えるうえでキーとなる要素であると改めて思う。

【参考資料】

1)Ambrosoneet CB al. Dietary Supplement Use During Chemotherapy and Survival Outcomes of Patients With Breast Cancer Enrolled in a Cooperative Group Clinical Trial (SWOG S0221). J Clin Oncol 2019; 38: 804-814.

2)Rock CL et al. American Cancer Society Guideline for Diet and Physical Activity for Cancer Prevention. CA Cancer J Clin 2020; 70: 245-271.