IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
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SARS-CoV-2とACE2

北陸大学薬学部 薬学臨床系薬理学分野 代替医療薬学・実験治療学研究室 教授 光本 泰秀

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は,ACE(Angiotensin-Converting Enzyme,アンギオテンシン変換酵素)2に結合しヒトに感染することが分かっている。このACE2は,ACEのヒトホモログとして発見された膜結合型アミノペプチダーゼで,アンギオテンシンⅡからアンギオテンシン(1-7)を生成する。そのため当初から,COVID-19とレニン-アンギオテンシン系との関連が注目されていた。ACE2はSARS-CoV-2に対する受容体として機能し,ウイルスが結合すると細胞内に取り込まれ,膜表面のACE2レベルが低下する。先述の通り,ACE2はアンギオテンシンIIを不活化するが,COVID-19では膜表面のACE2レベルが低下することにより、アンギオテンシン IIの増加及び作用の増強が生じ,これが炎症性サイトカインストームを介して、重度な肺障害を引き起こす。横浜市立大学を中心とした研究グループが実施した神奈川県内の6医療機関による多施設共同後ろ向きコホート研究「Kanagawa RASI COVID-19研究」において,レニン-アンギオテンシン系阻害薬であるACE阻害薬やARB(Angiotensin II Receptor Blocker,アンギオテンシン受容体拮抗薬)がCOVID-19の重症化を予防する可能性が示唆されたことは興味深い1)

 一方,天然物に目を向けると,インドネシアで食されているメリンジョ種子のエキスには,抗高尿酸血症,抗動脈硬化,抗糖尿病など様々な効果を有していることが知られている2)。このエキスに含まれるレスベラトロールの二量体であるグネチンCがAT1受容体における結合阻害活性を有することが報告されており3),ARBと同様の効果が期待できるかもしれない。また,インドのKing George's Medical Universityの研究グループが,アーユルヴェーダで用いられている天然化合物を対象にコロナウイルスの進入を阻止できる可能性を分子ドッキング法により検討した4)。対象となる化合物がコロナウイルス表面のスパイクを構成する糖タンパク質やACE2に対して結合親和性を有するかを解析した結果,クルクミン, ニンビン, ウィザフェリンA, ピペリン, マンギフェリン, テバイン, ベルベリン及び アンドログラホリドが,スパイク糖タンパク質及びACE2の両方に結合親和性を有していた。また,レスベラトロール,ケルセチン,ルテオリン,ナリンゲニン,ジンギベレン及び没食子酸は,ACE2のみに結合親和性を示した。これらの天然化合物は,ウイルスの細胞内への侵入を阻止し感染を予防できる可能性が考えられる。COVID-19に対するワクチン療法が世界中で加速されているが,発症を100%予防することは不可能で,重症化予防を目的とした治療法の確立にも期待したい。

【参考資料】

1)Matsuzawa Y, Ogawa H, Kimura K, Konishi M, Kirigaya J, Fukui K, Tsukahara K, Shimizu H, Iwabuchi K, Yamada Y, Saka K, Takeuchi I, Hirano T, Tamura K.
Renin–Angiotensin System Inhibitors and Severity of Coronavirus Disease-2019 in Kanagawa, Japan: A Retrospective Cohort Study.
Hypertens Res (2020) 43, 1257-1266.

2)鈴木信孝. 【総説】メリンジョ種子エキス. 日本補完代替医療学会誌 (2020) 17, 1-6.

3)Konno H, Kanai Y, Katagiri M, Watanabe T, Mori A, Ikuta T, Tani H, Fukushima S, Tatefuji T, Shirasawa T.
Melinjo (Gnetum gnemon L.) Seed Extract Decreases Serum Uric Acid Levels in Nonobese Japanese Males: A Randomized Controlled Study.
Evid Based Complement Alternat Med (2013) 2013, 589169.

4)Maurya VK, Kumar S, Prasad AK, Bhatt MLB, Saxena SK.
Structure-based drug designing for potential antiviral activity of selected natural products from Ayurveda against SARS-CoV-2 spike glycoprotein and its cellular receptor.
VirusDis (2020) 31, 179–193.