IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
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「おりん」の音色にどんな効果?

北陸大学薬学部 薬学臨床系薬理学分野 代替医療薬学・実験治療学研究室 教授 光本 泰秀

 昨年(2019年)の11月30日に第22回日本補完代替医療学会学術集会が,榎本俊樹先生(石川県立大学教授)を大会長として金沢商工会議所にて開催された。今回のテーマ,「機能性食品と医食農連携」からは,機能性食品の効果や作用機序の解明に関して,異分野,特に基礎と臨床の強力な連携によって,それらの研究を発展させていくべきであるとの意図がうかがえる。この学術集会で,これまで見かけなかった「おりん」に関する研究発表があったので簡単に紹介したい。仏具の中で「チーン」と鳴らすものと言えば誰もが頭に浮かんでくると思う。「鈴(りん)」や「お鈴(おりん)」と呼ばれる仏具で,簡単に打てば鳴るが正式な作法などは,宗派によって違いがあるようだ。今回,「おりん」の音色の効果に関する二つの演題があった。ところで抄録集には,「おりん」を「鏊子」とも表現している。「鏊子」は,中国語で烙饼を作るための鉄製のなべを意味するようである。
 一つ目の演題は,「おりん」の音色による継続刺激がどのような生理的反応を引き起こすか,自律神経機能や脳波を指標に検討した1)。健常成人30名を対照群(男性7名,女性8名),介入群(男性8名,女性7名)に振り分けた。介入群は,起床時と就寝時に3分間「おりん」を叩き,その作業を4週間続けた。対照群は,その作業時間帯に3分間安静座位をとらせた。4週間継続刺激前後で各指標を測定した。その結果,心拍数においては,両群間で有意な変化は示されなかった。自律神経機能では,交感神経機能を反映するLF/HF値が女性介入群で有意な低下を示し,男性介入群では変化を示さなかった。脳波では,介入前後の波は両群で有意な違いは示さなかった。一方,波は女性介入群で両側ともに減少傾向が認められた。これらの結果から,継続的なおりん刺激(4週間)で,特に女性に関して交感神経機能の軽減や脳波でみられる緊張度(β波の減少)の緩和が示された。二つ目の演題では,不安度をスコア化した結果及び中医体質表を用いた偏りについての発表であった2)。ここでも不安度に関し,女性介入群でスコアが大きく減少したが,男性では影響が見られなかった。また,中医体質においては,男女ともに偏りが見られなかった。これらの結果から,継続的なおりん刺激が,女性の日常ストレスに対する不安反応を軽減したことが示された。また,両演題の結果からおりん刺激による生体への影響に明らかな男女差があることがわかった。
 「おりん」は,寺院用の物では「鏧子(けいす)」と呼ばれるが,仏前で手を合わせる時に鏧子の音と共に祈りが仏の世界まで届くように,または経典などの読経の時にリズムを整える「合図」として鳴らされるとのこと。音楽とは異なり,「おりん」というごく単純な音色が生体に良い影響(特に女性)を及ぼすことは興味深い。その反応性に関して明らかな男女差があることは,そのメカニズムを探るうえで一つのヒントになるかもしれない。上記の臨床試験で1点気になることは,対照群で3分間安静座位をとらせているが,音色の効果を評価目的にしているのなら同様な作業(叩くが鈍い音を発する,もしくは無音にするなど)を行わせる必要があるだろう(治験でのプラセボに相当)。

【参考資料】

1)第22回日本補完代替医療学会抄録集(2019)P33.
「おりん」音色の継続刺激による生体の生理学的変化
許 鳳浩1,2),島谷 好徳3),立瀬 剛志4),上馬塲 和夫2,5,6)
1. 金沢大学医薬保健学総合研究科補完代替医療学講座,
2. 一般社団法人Wellbeing Pro,
3. 有限会社シマタニ昇龍工房,
4. 富山大学大学院医学薬学研究部疫学健康政策学,
5. ハリウッド大学院大学,
6. 帝京平成大学ヒューマンケア学部東洋医学研究所

2)第22回日本補完代替医療学会抄録集(2019)P34.
「おりん」の継続的音色刺激による心理学指標への影響
上馬塲 和夫1,2,3),島谷 好徳4),立瀬 剛志5),許 鳳浩3,6)
1. ハリウッド大学院大学,
2. 帝京平成大学ヒューマンケア学部東洋医学研究所,
3. 一般社団法人Wellbeing Pro,
4. 有限会社シマタニ昇龍工房,
5. 富山大学大学院医学薬学研究部疫学健康政策学,
6. 金沢大学医薬保健学総合研究科補完代替医療学講座