北陸大学薬学部 薬学臨床系薬理学分野 代替医療薬学・実験治療学研究室 教授 光本 泰秀
Medical Clinics of North America誌(2017年101巻、847~864頁)に掲載された”Complementary Therapies for Mental Health Disorders”の中で、うつ病(MDD、major depressive disorder)患者に対するプライマリケアーで共通に用いられている補完療法について紹介されていた1)。MDDに対して一般的に利用されている補完療法には、ハーブ療法(例:セントジョーンズワート、漢方製剤)、非ハーブ系サプリメント(例:オメガ-3脂肪酸、S-アデノシル-L-メチオニン)、鍼治療、ヨガ、または瞑想などがある。加えて、身体運動や光療法などもMDDに対する補完療法として利用されている。特に代表的な6つの補完療法の有効性に関し3つのカテゴリー(Effective(有効)、Likely effective(おそらく有効)、Possibly effective(有効性が示唆されている))に分かれるが、Effectiveと判断されたのは唯一Light therapy(光療法)のみである(表1)。光療法は、既に現代医療の現場でも取り入れられている現状を見ると、その科学的根拠はある程度確立していると考えられるが、対象となるうつ病の型で根拠の強さに差があるとのことである。
先述の論文内で紹介されていた光療法に関する内容について以下にまとめてみた。光療法は、光線療法としても知られており、毎日明るい光に曝露されることで行うもので、蛍光灯ボックスを用い自宅でも行える。 通常、フィルターで紫外線を遮断し、10,000 lux(光強度)の白色蛍光灯に20〜60分曝露される必要がある。この白色蛍光灯の光強度は、通常の室内の明るさの約20倍量である。MDDに対する標準的な治療プロトコルは、1日当たり早朝の30分間、10,000 luxの光に曝露されることを最大6週間継続する。通常1〜3週間以内には反応が見られる。これまでMDD対象に行われた臨床試験では、ほとんどが季節型(以前は季節性感情障害SAD, seasonal affective disorder と呼ばれていた)に対してであったが、不活性化プラセボと比較した非季節型MDDに対する評価も行われている。Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments(CANMAT)による最近の系統的レビューでは、光療法の季節型MDDに対する有益性だけでなく、非季節型MDDに対する治療効果の可能性についても言及している。光療法の有益性は、単一療法として使用されるか、もしくは他の療法と併用されるかにかかわらず明らかである。ただ、一般的なMDDに対する治療法と比較した試験が、これまでほとんど存在しない。光療法は忍容性が高い療法であるが、報告されている副作用には、眼精疲労、頭痛、動揺、吐き気、鎮静、そして稀ではあるが軽躁病または躁病がある。近頃の比較有効性試験では、光療法と認知行動療法が季節型MDDに対して短期的には同等の有効性を示したが、2年後においては後者の効果が優っていたことを示している。CANMATのガイドラインでは、季節型MDDの一次治療として光療法を推奨している。また軽度から中等度の非季節型MDDの二次治療としても推奨している。これらはアメリカ精神医学会のMDDにおける補完代替医療に関する作業部会報告と一致していた。
高照度光療法は、単一療法として、また他の治療を補強する上で合理的な治療法であり、特に季節型MDDでは確立された利点を持つ療法である。
【参考資料】
1)Asher GN, Gerkin J, Gaynes BN. Complementary Therapies for Mental Health Disorders.
Med Clin N Am. 2017; 101(5): 847–864.