北陸大学薬学部 医療薬学講座代替医療薬学分野 教授 光本 泰秀
飛蚊症は,網膜裂孔や硝子体出血など病的な原因が伴う場合,その治療が必要になる。生理的飛蚊症は,加齢に伴って生じるもので病気でないうえに改善は期待できない。飛蚊症になると黒い点や虫のようなものが見え,眼を動かすと,その物体が同じように移動することがある。暗い中ではあまり気にならないが,背景が白いときはより明確に物体を認識できる。生理的飛蚊症では,慣れることしか手立てがないようだが,常に視野の中に異物が見えるのは結構ストレスになる。
日本眼科学会のHPを見ると,生理的飛蚊症について以下のように説明されている1)。「眼球内には卵の白身に似た透明なゼリー状のものがつまっています。これを硝子体と呼びます。この硝子体は,99%以上が水分で,わずかに線維を含んでいます。若いときには透明で濁りがありませんが,年齢に伴い濁りが出ることがあります。もう少し詳しくいえば、年齢が進むとともに線維と水分が分離して中に空洞を形成します。それがさらに進行すると眼球の内壁から硝子体が離れて,線維の塊が眼球内をふわふわと浮いた後部硝子体剥離と呼ばれる状態になります。この線維の塊は,ものを見ている本人には影として認識されますが,これが飛蚊症の本態です。・・・・・飛蚊症自体は完全に消えることはありません。しかし慣れてくると、普段はその存在に気付かなくなります。」
ここで出てくる線維の塊というのは,コラーゲンのことである。また,「慣れてくると、普段はその存在に気付かなくなります」と治療の必要性やその有無については言及されていない。肌のしわと同じように加齢とともに出現してくるものだから仕方がないと言えばそれまでだが,少しでも改善できないかと思う。レーザーによる症状改善や硝子体切除術という方法で症状の改善や治療が可能のようだが,前者では治療に適さない場合があり,後者では合併症を引き起こす可能性がつきまとう。
そこで代替医療的アプローチでその症状を何とか軽減できないかと思い,インターネット上で検索すると多くの情報が提供されている。その中で最も目につくのが「ルテイン」である。ルテインとは,ホウレン草などに含まれるカルテノイド色素で,体内で合成することができないため,食事やサプリメントで摂取する必要がある。ルテインは,ゼアキサンチンとともに目の黄斑色素量を維持する働きがあり,ブルーライトなどの光刺激から眼を保護し調子を整えることが報告されており,機能性成分として流通している2)。また,両成分は活性酸素の発生しやすい場所に存在し,それらの活性酸素消去作用により酸化ストレスから水晶体や網膜を保護してくれる。ルテインの臨床効果については,米国において加齢黄斑変性の患者を対象に実施された大規模な試験(AREDS2)で,その進行リスクを有意に低下させたことが報告されている3)。ただ,飛蚊症に対してルテインが,その症状を改善するといった科学的根拠は,現時点で確立していない。また,飛蚊症を対象に国内外でRCT(ランダム化比較試験)が実施されたといった報告も見当たらない。それでもネット上では,サプリメントの摂取により症状が改善したという体験談が紹介されていたり,臨床試験が実施されているかのような(上記のAREDS2を指していると思われる)説明がなされていたり,読者に誤解を与えかねないような情報が氾濫している。加齢による症状で病気が原因ではないことが理解できても,飛蚊症のような症状は精神的ストレスの要因となり,日常生活に支障を来すこともある。そのため少しでも効果が期待できそうな情報に触れると,ついつい吉報に出くわした気分になってしまう。天然の成分で科学的根拠が存在しない場合,臨床評価そのものが行われていないこともあり,必ずしも奏功しないとは言い切れない。しかしながら利用するにしても正しい情報を理解した上で利用することが望ましいと考える。薬剤師から客観的な情報が提供され,その上で適正使用に関するアドバイスがなされることを願っている。
1)日本眼科学会,目の病気,飛蚊症
http://www.nichigan.or.jp/public/disease/hoka_hibun.jsp
2)橋本正史:機能性表示食品におけるルテインとゼアキサンチンの科学的根拠.ファルマシア,52:534-538,2016.
3) Age-Related Eye Disease Study 2 Research Group. Lutein + zeaxanthin and omega-3 fatty acids for age-related macular degeneration: the Age-Related Eye Disease Study 2 (AREDS2) randomized clinical trial. JAMA,309:2005-15,2013.