IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
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PDに対する代替医療利用調査

北陸大学薬学部 医療薬学講座代替医療薬学分野 教授 光本 泰秀

 パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)に対する補完代替医療の利用状況に関しては,筑波技術大学保健科学部保健学科の大越教夫先生による「パーキンソン病における補完代替医療に関する実施状況-患者および神経内科専門医に対するアンケート調査-」と題した2007年の報告がある1)。この報告では,茨城県内のPD患者に対する補完代替療法の普及の実態を知ることを目的に,患者および神経内科専門医の双方を対象に運動療法,漢方治療,鍼灸治療,あんま・マッサージなどに焦点があてられている。その後,自治医科大学内科学講座神経内科学部門の藤本健一先生(現自治医大ステーション・ブレインクリニック)による「エビデンスの無い治療法の対応」と題した報告が2013年の臨床神経学誌に掲載された2)。ここでいうエビデンスの無い治療法とは,PDに対する治療効果が公にみとめられていない治療法のことで,いわゆる代替医療を指す。通常の診療でPD患者と接する機会の多い神経内科専門医が,PDに対する代替医療として具体的にどのような治療法があり,どの程度の患者が利用しているのかを知る目的で,通院患者より聞き取り調査をおこなったものである。少し前の調査結果になるが,薬剤師にとってもPD患者の代替医療における動向を知るうえで有用な情報と思われる。調査結果は,経口摂取するもの(サプリメント)と健康器具の大きく2つに分けて集計されているが,ここでは特に前者の調査結果について簡単に触れたい。

 調査対象になったのは,2012年12月~2013年2月に著者の外来を受診したパーキンソン病患者と介護者の300 組で,患者の年齢は68.8±9.1(平均±SD:以下同様)歳,罹病期間は10.4±6.4 年,性別は男性124 人,女性176 人である。様々な代替医療が利用されていたが,経口摂取するもの(いわゆるサプリメント)と健康器具に分けて集計された。代替医療の使用経験がまったくない患者は300 人中94 人(31.3%),サプリメントの使用経験がある患者が128名(42.7%),健康器具の使用経験がある患者が163 人(54.3%),両方とも使用経験がある患者が85 人(28.3%)であった。サプリメントごとに,購入歴のある人数が高かったものとして,上位から総合ビタミン剤(15人),クロレラ(12人),青汁(10人)と続く。この調査結果の中で各サプリメント利用者のPDに対する効果の期待率が示されているが,これら上位3商品はPDに対する効果の期待率が決して高くない(総合ビタミン剤:0%,クロレラ:25%,青汁:0%)。サプリメントの購入者に,どのような効能・効果を期待して購入しているかを質問した結果から,たとえば青汁は便秘,ブルーベリーは視力など,それぞれのサプリメントごとに期待する効能・効果は異なっていた。一方,サプリメントの使用経験者の中でPDに対する効能・効果を期待して購入した人の割合が高かった商品として,コエンザイムQ10とムクナ豆がある。前者については,以前この代替医療情報でも紹介した。後者のムクナ豆は,Levodopaを豊富に含有する(ムクナ豆 1gあたりLevodopa 20-35mg)ため,古くからPD治療に用いられてきた。ムクナ豆はLevodopaと同等の臨床的に高い抗PD効果を有するが3),天然物であるためにLevodopa以外にも多成分を含有し栽培や食品加工の過程で品質やLevodopa含有量のばらつきが大きくなる。医薬品と同一成分が高い含量のサプリメントを利用する患者については,当然医師や薬剤師が把握した上で,その摂取量については厳重に管理する必要がある。

 藤本先生は,ここで紹介した調査報告の最後を以下のように締めくくられている。「もし患者から代替医療に関する相談を受けたなら,パーキンソン病の効能・効果が公式に証明されたサプリメントは存在しない。パーキンソン病への直接的な効能・効果が公式にみとめられた健康器具もない。高額な健康器具を購入しても,実際に使っている患者は少ない。たとえその健康器具が快適な生活に役立つにしても,適正な価格なのか吟味すること。また,体験場に行くと,巧みな話術で押し切られる可能性がある。自宅での契約はクーリング・オブが可能であるが,店頭あるいは体験場での契約はクーリング・オブができないことに注意する。このことを患者に伝えるのが,主治医に課せられた使命であろう。」と患者が代替医療によって不利益を被ることが無いよう重要な提言をされている。確かにPDに対する代替医療で科学的根拠が確立しているものは皆無といって良い。勿論,患者に対して正確な情報を提供することは医療者の使命であるが,その際に「患者の気持ち」を考慮することも忘れてはならないような気がする。

【引用文献】

1.大越教夫:パーキンソン病における補完代替医療に関する実施状況-患者および神経内科専門医に対するアンケート調査-,筑波技術大学テクノレポート, 14: 207-210, 2007.
2.藤本健一:エビデンスの無い治療法の対応,臨床神経学, 53: 1056-1058, 2013.
3.Katzenschlager R, et al. Mucuna pruriens in Parkinson's disease: a double blind clinical and pharmacological study. J Neurol Neurosurg Psychiatry, 75: 1672-1677, 2004.