IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
食薬区分と“カルニチン”

 カルニチンは,コエンザイムQ10やαリポ酸と共に細胞を元気にする(エネルギー産生を促す)作用やダイエット効果(脂肪の燃焼を促す)を有するということで,健康食品としても親しまれている。昨年,日本小児科学会の日本小児連絡協議会栄養委員会で作成された「カルニチン欠乏症の診断・治療指針2016」1)では,「カルニチン欠乏症」,あるいは「カルニチン欠乏症が発症する可能性が極めて高い状態である」と診断された場合,レボカルニチンを投与する(カルニチン補充療法)ことが明記され,カルニチン補充療法の標準的な用法・用量が示された。このように元来医薬品としてのカルニチンの重要性が増してきた。

 医薬品としてのカルニチン(レボカルニチン製剤)は,大塚製薬が「エルカルチン錠」の商品名で平成2年に「プロピオン酸血症およびメチルマロン酸血症におけるレボカルニチン欠乏の改善」の効能・効果で承認を受け販売してきたが、その他の原因によるカルニチン欠乏症に対しての適応症はなかった。平成22年10月に日本先天代謝異常学会や日本小児科学会からの効能追加等の要望に基づき,医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議において、「エルカルチン錠」が公知申請に該当すると評価され,「カルニチン欠乏症」への適応および用法・用量の変更を行った。しかし,剤形が錠剤のみであったため,同検討会議からの要請を受け,同社は内用液剤、注射剤の開発を行い平成25年2月の発売に至った。

 医薬品としての重要性が増してきたカルニチンは,いつから食品として扱われるようになったのか,その経緯について振り返ってみたい。平成14年11月15日,厚生労働省医薬局長通知により,L-カルニチンが「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」から削除され,「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」に追加された(「医薬品の範囲に関する基準の一部改正について」(平成14年11月15日医薬発第1115003号))。その後,平成14年12月25日,厚生労働省医薬局食品保健部基準課長通知により,L-カルニチンを食品添加物として使用する場合にあっても,別途食品添加物としての指定を要することなく,直ちに食品として流通できることとなった(「「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」の取扱いの改正について」(平成14年12月25日食基発第1225001号)。即ち,上記過程を経てL-カルニチンは,薬としてだけでなく食品として取り扱われるようになった。

 この前年に,国内外の企業から日本でL-カルニチンが,薬事法(現在の医薬品医療機器等法)上,専ら医薬品として扱われていることに対する苦情が内閣府に寄せられていたので紹介する。内閣府にOTOという体制が置かれているが,これは「Office of Trade and investment Ombudsman」の略で,「市場開放問題苦情処理体制」を意味する。ここに平成13年3月19日付でスイスの化学品製造会社から下記のような苦情(概要)が寄せられていた。

 『栄養補助食品、乳幼児用食品、スポーツドリンク等の成分となるL-カルニチンをヨーロッパ各国やアメリカに製造・販売している。ところが,日本ではL-カルニチンは,薬事法上,専ら医薬品として使用されるべき成分として扱われているため,これを成分とする物質は医薬品に該当する。専ら医薬品として使用されるべき成分を食品に使用することは認められないことから,L-カルニチンを含む食品は日本に輸入できない。厚生労働省では,平成12年8月に「食薬区分における成分本質(原材料)の取扱いについて」において食薬区分の判断基準案を示し,現在,食薬区分の見直しを検討しているところである。日本では,先天性の病気でL-カルニチンが体内で生成できない乳幼児に対する治療薬として承認された経緯があることから,上記見直しにおいても依然としてL-カルニチンは医薬品扱いとされる可能性が高い。しかし,L-カルニチンは,ヒトの場合主に肝臓で合成される生体内物質であり天然に存在すること等から,海外における取扱いをみると,スイスでは摂取量の上限はあるものの,医薬品ではなく健康食品とされ,ドイツでは食品中のL-カルニチンは天然成分とみなされ食品に対する特別の規制はない等,多くの国でL-カルニチンは食品として扱われている。したがって、L-カルニチンについて上記のような海外の取扱いの状況を踏まえ,食品としても扱われるよう結論を出して欲しい。また,これが困難であるなら,L-カルニチンが薬事法上,専ら医薬品として使用されるべき成分と判断される科学的根拠を示して欲しい。』

 カルニチンの生理。生化学作用は多様で,最近ではアセチル-L-カルニチン(体内でカルニチンから産生)が代謝型グルタミン酸受容体の転写活性亢進や神経栄養因子の情報伝達系を調節することにより,抗うつ作用を発揮することが基礎研究レベルで報告されている2-4)。ミトコンドリア機能賦活成分としてのカルニチンが,健康の維持,疾病の予防から治療まで健康・医療分野の広範囲で貢献できることを願いたい。

【参考文献】

1. 日本小児連絡協議会栄養委員会,日本小児科学会「カルニチン欠乏症の診断・治療指針2016について」
https://www.jpeds.or.jp/modules/news/index.php?content_id=245/

2. Di Cesare Mannelli L, Vivoli E, Salvicchi A, Schiavone N, Koverech A, Messano M, Nicolai R, Benatti P, Bartolini A, Ghelardini C. Antidepressant-like effect of artemin in mice: a mechanism for acetyl-L-carnitine activity on depression. Psychopharmacology (Berl). 2011; 218: 347-56.

3. Nasca C, Xenos D, Barone Y, Caruso A, Scaccianoce S, Matrisciano F, Battaglia G, Math? AA, Pittaluga A, Lionetto L, Simmaco M, Nicoletti F. L-acetylcarnitine causes rapid antidepressant effects through the epigenetic induction of mGlu2 receptors. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013; 110: 4804-9.

Wang W, Lu Y, Xue Z, Li C, Wang C, Zhao X, Zhang J, Wei X, Chen X, Cui W, Wang Q, Zhou W. Rapid-acting antidepressant-like effects of acetyl-l-carnitine mediated by PI3K/AKT/BDNF/VGF signaling pathway in mice. Neuroscience. 2015; 285: 281-91.


2017/03/13