第19回日本補完代替医療学会学術集会が,本学会発祥の地,金沢市で11月26日,27日の両日に亘って開催された。今回の主テーマを「CAMの科学的エビデンス-基礎から臨床への橋渡し-」とし,筆者が大会長として会のお世話をさせて頂いた。大会自体はコンパクトな規模ながら充実したプログラムの構成になっており,参加者にとって有意義な会になったと信じたい。本大会での多くの興味深い講演の中から,ここでは薬剤師にとっても非常に気になる内容の招請講演について触れることにする。招請講演は,日本生命済生会付属日生病院,糖尿病・内分泌センター部長の住谷哲先生による「エビデンスに基づいた2型糖尿病の薬物療法-基礎治療薬のメトホルミン-」と題した講演であった。
メトホルミンは,糖尿病に対する治療薬として古くから使用されているが,その起源は中世ヨーロッパで糖尿病症状(多尿,口渇)を緩和するために用いられていた,民間薬ガレガソウ(Galega Officinalis L.)にさかのぼる。ガレガソウを食べた牛の乳生産量が大きく増加することが知られており,飼育用にも栽培されている。20世紀初頭にこのガレガソウからグアニジンが抽出され,血糖降下作用が確認された。しかしながらグアニジンそのものは,毒性を有しており医薬品として応用することは困難であった。そこで登場したのが,グアニジンを2個結合させることで,安全性を高めたビグアナイド系化合物である。1950年代に入りビグアナイド系化合物であるフェンホルミン,ブホルミン,メトホルミンの3剤(図1)が開発され,糖尿病治療薬として広く使用されるようになった。その後,1970年代にフェンホルミンで重篤な副作用(乳酸アシドーシス)が確認され,多くの国で販売中止となった。
図1 ビグアナイド系化合物
2型糖尿病患者に血糖降下薬を投与する目的は真のアウトカム(総死亡,細小血管障害,大血管障害など)を改善することであり,代用アウトカム(HbA1cなど)を改善することではない。従って真のアウトカムを改善する血糖降下薬を選択することが肝要である。これに加えて基礎治療薬には,①確実な血糖降下作用,②低血糖を生じない,③体重を増加させない,④長期の安全性が担保されている,⑤安価である,ことが求められ,これら全てを満たす薬剤はメトホルミンのみである。従って主要な治療ガイドラインでは,禁忌に該当しない限り,診断されたすべての2型糖尿病患者にメトホルミンを投与することを推奨している。ところが国内では,メトホルミンのベネフィットがとりわけ大きいと考えられる,心血管疾患を有する2型糖尿病患者に十分に投与されているとは言い難い。その理由の一つが,メトホルミン投与による乳酸アシドーシスに対する懸念があると思われるが,多くの観察研究ではこの薬剤投与により乳酸アシドーシスは増加しないことが報告されている。以上は,住谷先生が講演内で特に強調されていた部分であるが,基礎治療薬としてのメトホルミンに期待したいところである。
最近,米国政府機関のAgency for Healthcare Research and Quality(AHRQ,医療品質研究調査機構)が,過去の研究報告から2型糖尿病患者に対する薬剤の効果と副作用について,単剤で治療した場合とメトホルミンを基本とした多剤併用の場合とで比較した結果をまとめた1)。ここでは,「メトホルミンのHbA1c,体重,心血管死亡率(SU剤に比べて)に対する有益性および相対的な安全性から,メトホルミンが第一選択として支持される」と結論付けている。古くに開発された薬剤が,その効能効果に関する詳細な性質が明らかにされることにより,その有用性が見直されることがしばしばある。メトホルミンもその一つにちがいない。
1. Diabetes Medications for Adults With Type 2 Diabetes: An Update Comparative Effectiveness Reviews. No.173, 2016 Apr.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedhealth/PMH0088154/
2016/11/30