IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
パーキンソン病リハビリテーションとストレス緩和

 神経変性疾患の一つであるパーキンソン病では,その神経症状を改善するための神経伝達改善剤が現行の薬物治療の中心である。アルツハイマー病に代表されるこのような神経変性疾患では,潜伏期間が長いため,発症後に変性した神経の機能回復を目的とした治療はほぼ不可能であると考えられている。発症後に病勢の進行を抑制する目的で,神経保護薬の創薬や開発も盛んに進められているが,世界的に見ても未だ臨床的エビデンスに基づきパーキンソン病の進行抑制を立証できた薬剤は皆無である。 一方,リハビリテーションはパーキンソン病に有効な治療手段の一つと考えられている。日本神経学会のパーキンソン病治療ガイドライン20111)では,運動療法が,身体機能,健康関連QOL,筋力,バランス,歩行速度に有効であることや転倒の頻度が減少すること,更に外部刺激,特に聴覚刺激による歩行訓練による歩行の改善について,科学的根拠があり推奨されている。

 精神的ストレスが,脳機能に影響を及ぼすことはよく知られており,これまでも神経科学領域では,その詳細について多くの基礎研究が進められてきた。興味深いことにストレス緩和策がパーキンソン病の機能回復に奏功することが,臨床現場で実際に認められている。国立病院機構徳島病院では,平成21年よりパーキンソン病患者を対象にした入院による集中的リハビリテーションを行っている(パーキンソン病リハビリ)。徳島病院で行うリハビリテーションは,これまでの運動機能障害の克服を目的にした急性期リハビリテーションとは全く異なり,「することが楽しくなる」ような,独自のリハビリメニューを提供することによって,緩徐に進行する病勢の進行を抑制することを目標にしている。同病院で行うパーキンソン病リハビリには次のような特徴があると紹介されている。

 【徳島病院パーキンソン病リハビリの特徴】
1.比較的軽症のパーキンソン病(Hoehn & Yahr 3期まで)の方を対象にしています。
2.個々の患者様に対するストレスの影響の有無を解析し、これを軽減することに重点をおきます。
3.それぞれの患者様に最もふさわしい独自のメニューを作成し、オーダーメイドのリハビリを行う。

独立行政法人国立病院機構徳島病院パーキンソン病リハビリより

 上記パーキンソン病リハビリでは,様々な方法が取り入れられている。家庭用ゲーム機の使用によって病気の進行要因と考えられるストレスを解消させ,柔軟体操や発声練習なども行っている。また太極拳のゆっくりした動きを応用し,パーキンソン病患者にみられる,バランスを崩して転倒しやすくなる症状の改善も試みられている。同病院では,具体的な方法だけでなく,スタッフの接し方,入院をしてリハビリをすることに関した環境の全てについて重要であるとの考えに立って,パーキンソン病リハビリの更なる改善を進めている。

 生活環境の改善などにより精神的ストレスを解消させることが,神経疾患の症状の改善に結びついた例を時々耳にする。神経変性疾患のような不可逆的に神経変性が進行するような難病で,しかも薬でさえ成し得ない効果の発現には,これからも更に注目していきたい。ストレス緩和策の効果に関する科学的な検証や効果発現の基礎的メカニズムの解明が,今後の新たな予防法や治療に結びついていくと信じられるからである

【参考文献】

1) 日本神経学会監修,「パーキンソン病治療ガイドライン」作成委員会編集,パーキンソン病治療ガイドライン2011

2015/11/05