IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
米国NCCIH(国立補完統合衛生センター)とはどんなところなのか?

 米国においては,補完代替医療(CAM)アプローチに関する研究・教育を積極的に進める公的な機関として,国立補完代替医療センター(National Center for Complementary and Alternative Medicine:NCCAM)が重要な役割を果たしてきた。2014年12月17日にこのセンターの名称をNational Center for Complementary and Integrative Health(NCCIH)に変更することが発表された1)。日本語では国立補完統合衛生センターや国立補完統合健康センターなどと訳されている。この改称は,オバマ大統領によって署名された包括的予算措置の一環として実施され,旧来の名称からAlternative(代替)という表現が削除されている。今回は,この背景について簡単に解説したいと思う。

 1993年,ハーバード大学のアイゼンバーグ博士は,New England Journal of Medicine(NEJM)にアメリカ国民のCAMの利用状況について,その調査結果を報告した2)。その報告は西洋医療に携わる医師にとってショッキングなものであった。この調査では16種類のCAMに関してのみを調査対象にしていたが,西洋医学が急速に進歩している世の中で,アメリカ国民の33.8%が少なくとも一つのCAMを利用し,CAMの実施施設への外来回数はのべ4億2,700万回に達していた。この外来回数はかかりつけ開業医への外来回数3億3,800万回を大きく超えていた。合衆国政府もこのような状況は既に把握しつつあったと思われ,1992年に国立衛生研究所(National Institute of Health:NIH)内に代替医療事務局(Office of Alternative Medicine:OAM)を設置した。OAMの主な目的は,CAMの効果について調査し,評価することや正確な情報を一般市民と共有することにあった。1998年にOAMは先述のNCCAMに格上げされ,NIH内の他の研究所と同様の組織となり予算も拡大し続けた。NCCAMは,NIHのクリニカルセンターや全米各地の医科大学・研究機関と共同でCAMを用いた臨床試験や基礎研究を積極的に進めてきた。しかしながら, NCCAMが主導で実施してきた数々の臨床試験では,病気の予防や治療に対して代替医療アプローチが有効であるという科学的エビデンスの確立には至らなかった。

 NCCIHでは、Complementary Medicine(補完医療)とAlternative Medicine(代替医療)を以下のように定義している3)。
【補完医療】
If a non-mainstream practice is used together with conventional medicine, it’s considered “complementary”.
【代替医療】
If a non-mainstream practice is used in place of conventional medicine, it’s considered “alternative”.

即ち,通常医療(西洋医学)と一緒に用いる非主流の療法が補完医療で,通常医療の代わりに用いる非主流の療法が代替医療と説明している。後者の代替医療に関しては,これまでに科学的エビデンスが確立され,通常医療に代わって用いることのできる有用性が証明されたものは皆無に等しい。言いかえれば,合衆国政府は効果が認められない療法に関して,その調査や研究のために多額の税金を費やしてきたことになる。このような経緯から2010年ごろよりNCCAMの研究目的が, 「病気の予防・治療」から「病気の症状や治療に伴う副作用のマネジメント」に変更されつつあった。これは,同センターにおける研究の方向性が通常医療に代わる「代替医療」から,通常医療と一緒に用いる「補完医療」に大きく方向転換したことを意味する。今回のNCCAMの名称変更は,先述のとおり,米国の医療におけるCAMの位置づけが変化してきたことを反映したものと理解できる。

 我が国では,2012年度におこなわれた厚生労働省の『「統合医療」のあり方に関する検討会』において,「統合医療」を「近代西洋医学を前提として,これに相補(補完)・代替療法や伝統医学等を組み合わせて更にQOL(Quality of Life:生活の質)を向上させる医療であり,医師主導で行うものであって,場合により多職種が協働して行うもの」と定義づけている4)。日本は米国に比べ,非主流的な医療に関する議論がスタートしたばかりである。米国の動きは,我々にCAMについてどのように向き合うべきか,一つのヒントを提供してくれているのかもしれない。

【参考文献】

1) https://nccih.nih.gov/news/press/12172014
2) Eisenberg DM et al. (1993) Unconventional medicine in the United States. Prevalence, costs, and patterns of use. N Engl J Med. 328:246-52.
3) https://nccih.nih.gov/health/integrative-health
4) http://www.ejim.ncgg.go.jp/public/about/index.html

2015/6/18