IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
未病と治未病

 昨年の夏,金沢市において,NPO法人日本科学士協会(仙台市)主催の市民補完代替医療科学談話会が開催され,大会世話人を務めた。こぢんまりとした会ではあったが,同医療への市民の関心の高さを再認識する良い機会となった。この会で鈴木信孝金沢大学大学院特任教授(日本補完代替医療学会理事長)は,「健康と体質」と題して「治未病(ちみびょう)」の重要性について講演された。「未病」という言葉は世間一般に浸透してきたが,「治未病」という言葉は未だ馴染みが少ない。今回は,鈴木先生の講演内容をもとに「未病」と「治未病」について解説することにする。

 「未病」という言葉は,約2000年前の中国で編集された医学書「黄帝内経」で初めて記された。ここでは,「未病」とは「病気に向かう状態」を意味し,この未病の状態を治せる医師が特に貴重な存在で有能であると考えられている。例えば,免疫機能の異常にいち早く気付き,食事や生活習慣の改善を促すことによって未病の状態を脱することが重要であるということである。日本未病システム学会では,「自覚症状はないが検査では異常がある状態」と「自覚症状はあるが検査では異常がない状態」を合わせて「未病」としている。健康診断の血液検査で軽度の数値異常が見つかったり,明らかな病気は患っていないのに体がだるかったり,妙な息切れがするといった不調を感じている人は,未病の段階に入っている可能性がある。鈴木先生は,国内では未病対策が置き去りにされており,今後半分病気の人を治す「治未病」という考え方が重要になってくることを講演の中でも強調されていた。

 2007年12月,中国国家中医薬管理局(日本の厚生労働省に相当)は「治未病」プロジェクトチームを立ち上げ,ワーキンググループと事務局を創設した。同グループの統括と指導、管理の基で,「治未病」という国民の健康増進を図る一大プロジェクトが全国で展開され,これまでに少なくとも170か所以上で「治未病センター」が作られ,未病のうちに異常を発見し,治療する試みが着々と進んでいる。治未病センターでは「体質九分類」理論に基づいた「体質調査票」が公式に採用されている。中医師は調査票の結果を参考に,個人の体質を判定した後,それぞれに適した養生法を組み立て,指導している。未病体質を良好な状態に改善することは健康増進・健康寿命の延長・疾病予防・医療費削減に直結するものであると考えられている。

 ここで言う「体質九分類」とは,1.平和質(へいわしつ),2.気虚質(ききょしつ),3.陽虚質(ようきょしつ),4.陰虚質(いんきょしつ),5.痰湿質(たんしつしつ),6.湿熱質(しつねつしつ),7.血瘀質(けつおしつ),8.気鬱質(きうつしつ),9.特稟質(とくひんしつ)のことである。鈴木先生は,60問の質問から構成されている体質調査票の日本語版を完成させた。この調査票により体質が確定すると,①飲食の養生,②メンタル養生,③ライフスタイルの改善,④運動習慣の育成,⑤ツボのヘルスケアという五つの養生法を組み合わせ,体質に合った健康法を実践していくことになる。まさに「体質九分類」に基づいたテーラーメイド型未病対策と言える。地域社会で健康の維持や疾病予防に関わる薬剤師が,この治未病において今後重要な役割を担うことを期待したい。

2015/3/3