ビタミンCが,生体内における酸化防御機構に寄与していることはよく知られているが,このビタミンの情動の変化に対する関わりについては不明な点が多い。しかしながらビタミンCは,情動の変化と密接に関わっているモノアミン系神経伝達物質,ノルアドレナリンの生合成に必要な補酵素として働き,また脳脊髄液中のビタミンC濃度が血漿中濃度に比べ高いことを考えると、情動をつかさどる脳内の機能にこのビタミンが何らかの重要な役割を担っていることが考えられる。
カナダのマックギル大学とユダヤ総合病院の調査では,急性期入院患者60%,外来患者の16%でビタミンCが欠乏していることが報告された1)。その原因としては,炎症や代謝ストレス(酸化ストレスなど)による異化作用の増加でビタミンCの消費が増大したことによると考えられるが,詳細なメカニズムについては不明である。また別の報告では,ビタミンC欠乏を呈した入院患者の背景を調査したところ,ビタミンCの低下に急性期反応の有無,生活環境,タバコ及びアルコールの消費などが関連していることが示された2)。
急性期入院患者におけるビタミンCの欠乏は,同患者でしばしば認められる気分障害の原因になっている可能性が考えられた。Hoffer博士らは,ビタミンCを摂取することで入院患者の気分障害を改善させることができるのではないかと考え検討を行った3)。32例の急性期入院患者を無作為に分け,ビタミンC を500 mgまたはビタミンD を1000 IUのどちらかを1日2回10日間摂取してもらった。ビタミンDは,その欠乏が気分障害に関与している可能性が報告されていることから選択された4)。気分状態を調査するために用いられるProfile of Mood States(POMS)で気分障害の程度を評価し(高スコアほど深刻な気分障害と定義),血液を採取して血中の各ビタミン濃度を測定した。ビタミンCを摂取した患者では血漿中,単核白血球中ともにビタミンC濃度が上昇し,気分障害スコアが34%減少した。一方,ビタミンDを摂取した患者では,血漿中のビタミンD濃度は上昇したが,気分障害スコアに有意な変化がなかった。これらの結果から,ビタミンC欠乏を呈した急性期入院患者では,ビタミンCの摂取がその欠乏を改善し,気分障害を軽減することが示唆された。
ビタミンCは野菜,果物などに多く含まれているため,安全で容易に摂取できる。成人の1日あたり摂取推奨量は100 mgである。食後にビタミンCを100 mg摂取した時では,その80〜90%が腸管から吸収されるが,5,000 mgでは20.9%の吸収と一度に多く摂取した方が吸収率は低下する。このことからビタミンCの摂取量は,多いほど体内への吸収率は低下し排泄率も高くなる。やはりビタミンCは,推奨量を目安に摂取するべきと考えられる。ビタミンCは,気分障害の患者だけでなく,健常者であっても様々な精神的ストレスによる気分障害の予防に役立つかもしれない。
1. Gan R, Eintracht S, Hoffer L. Vitamin C deficiency in a university teaching hospital. J Am Coll Nutr 2008; 27: 428–33.
2. Fain O, Paries J, Jacquart B, Le Moel G, Kettaneh A, Stirnemann J, et al. Hypovitaminosis C in hospitalized patients. Eur J Intern Med 2003; 14: 419–25.
3. Zhang M, Robitaille L, Eintracht S, Hoffer L. Vitamin C provision improves mood in acutely hospitalized patients. Nutrition 2011; 27: 530–33.
4. Wilkins CH, Sheline YI, Roe CM, Birge SJ, Morris JC. Vitamin D deficiency is associated with low mood and worse cognitive performance in older adults. Am J Geriatr Psychiatry 2006; 14: 1032–40.
2014/3/13