GABA(γ-aminobutyric acid:γ-アミノ酪酸)は,哺乳動物の脳内に高濃度に存在することが報告されて以来,多くの研究により中枢神経系における代表的な抑制性神経伝達物質の1つであることが明らかにされてきた。GABAは生体内においては,グルタミン酸からグルタミン酸デカルボキシラーゼによって脱炭酸されることにより生成されるが,自然界ではタンパク質非構成アミノ酸として,トマトやジャガイモ、ナスなどの果物や野菜をはじめ様々な食品素材に含まれている。近年,食品を様々な条件下(窒素充填,微生物による発酵等)に置いてGABA含量を増加させ,これを摂取することで血圧上昇抑制作用や抗ストレス作用が得られるといった研究が行われ,実用化にも至っている。消費者庁もGABAの入った「特定保健用食品」(トクホ)で,「血圧が高めの方に」という効能表示を認可しているのは、その効果には一定の科学的根拠が存在することを認めたからである。
先述したようにGABAは,脳内において抑制性神経伝達物質として重要な役割を担っている。そのためGABA含有食品では,その効能表示に「精神安定」や「リラックス」といった表現がしばしば用いられている。しかしながら,体の外から摂取し吸収されたGABAが,血液脳関門を通過し脳内に移行することは殆んどない(部分的に移行できる可能性はある)。その一方で,ヒトにおいて経口摂取したGABAが,精神的ストレスに対して緩和効果を示すことや,精神的ストレスによる免疫機能の低下を抑制することが報告されている1,2)。血液脳関門を通過できないGABAが,どのようにして中枢神経系に作用するかについて,その詳細なメカニズムはわかっていない。動物レベルでは,GABAの投与により脳内タンパク質合成速度が増加することが確認されており3),このことが脳機能に何らかの影響を与えている可能性も考えられる。
米国では,GABA類縁化合物のピカミロン(Picamilon)と呼ばれる製品が栄養補助食品として販売されているが,これはGABAにニコチン酸が結合したものである(下記構造式参照)。ピカミロンは,血液脳関門を容易に通過でき,脳内で酵素的に加水分解されGABAとニコチン酸を生成する。前者は抗不安作用を示し,後者は強力な血管拡張作用を示す。この化合物は,元々1960年代に旧ソビエト連邦で開発され,同国では処方薬になっている。動物レベルにおけるこの化合物の脳内移行性及び抗けいれん作用やバルビツレート誘発睡眠に対する延長作用などの中枢神経作用については,1984年に日本の研究グループからも報告されている4)。国内では,臨床応用はおろか,一般販売もされてもいないため,入手は個人輸入ということになる。日本人での有効性や安全性が気になるところである。
1. Abdou AM, Higashiguchi S, Horie K, Kim M, Hatta H, Yokogoshi H.
Relaxation and immunity enhancement effects of gamma-aminobutyric acid (GABA) administration in humans. Biofactors. 2006; 26:201-8.
2. Yoto A, Murao S, Motoki M, Yokoyama Y, Horie N, Takeshima K, Masuda K, Kim M, Yokogoshi H.
Oral intake of γ-aminobutyric acid affects mood and activities of central nervous system during stressed condition induced by mental tasks. Amino Acids. 2012; 43:1331-7.
3. Tujioka K, Okuyama S, Yokogoshi H, Fukaya Y, Hayase K, Horie K, Kim M.
Dietary gamma-aminobutyric acid affects the brain protein synthesis rate in young rats.
Amino Acids. 2007; 32:255-60.
4. Matsuyama K, Yamashita C, Noda A, Goto S, Noda H, Ichimaru Y, Gomita Y.
Evaluation of isonicotinoyl-gamma-aminobutyric acid (GABA) and nicotinoyl-GABA as pro-drugs of GABA. Chem Pharm Bull (Tokyo). 1984; 32:4089-95.
2013/11/6