統合医療について
統合医療とは、「近代西洋医学を中心として,伝統医学、相補・代替医療(補完代替医療)を統合し,患者中心の医療を推進しながらクライアントの疾病予防に努め、健康増進に寄与しようとするものである」と日本統合医療学会では定義づけている(図1)。その根底には,身体,精神のみならず,人間を包括的に診る全人的な医療という考えが中心にある。西洋医学を中心とした医療と補完代替医療は,それらの治療に対するアプローチや考え方が異なるため,しばしば相反する立場にあるような捉え方をされてきた。しかしながら,患者にとって最も良い医療を提供することが医療に携わるだれもが願い望むことである。そのような背景からここ数年国内でも統合医療を推進しようとする動きが高まってきた。2004年には東京で第1回国際統合医療専門家会議(組織委員長:渥美和彦東京大学名誉教授,日本統合医療学会理事長)が開催され,我が国の統合医療について,立ち遅れている問題点を明確にし,将来に向けての指針が取り纏められた(統合医療の東京宣言2004)。ちなみに米国では,統合医療の考えが既に根付いており,アリゾナ大学医学部統合医療プログラム部長のアンドリュー・ワイル博士は,日本の統合医療を取り巻く環境が米国の1990年台前半に起きていた状況であると同会議でコメントしている。
日本における統合医療の幕開け
これまで我が国においては,国が統合医療の調査・研究などに対して積極的に取り組む姿勢はなかった。しかしながら,補完代替医療分野の各方面からの働きかけにより,ここ数年国会議員の中でも党派を越え統合医療を理解しようという動きが高まってきた。昨年の衆議院議員総選挙では,民主党のマニフェストの中で,「統合医療の推進」が明確に掲げられ,その中で「漢方、健康補助食品やハーブ療法,食餌療法,あんま・マッサージ・指圧,鍼灸,柔道整復,音楽療法といった相補・代替医療について予防の観点から,統合医療として科学的根拠を確立します」と述べられていた。
今年1月29日の第174回通常国会における鳩山内閣総理大臣施政方針演説で,「健康寿命を伸ばすとの観点から、統合医療の積極的な推進について検討を進めます。」と首相の統合医療推進に対する並々ならぬ決意が示された。この方針を受けて早速,統合医療に関する情報の集約,調査・研究を目的に厚生労働省内に統合医療プロジェクトチームが発足し,2月5日には第1回の会合が開催された。
西洋医学の立場から
これまで述べてきたように国内においても本格的に統合医療に対する取り組みが始まろうとしてきた。これらの動きに対して敏感に反応したのが日本医師会である。3月10日の定例記者会見で日本医師会は政府の取り組みに対する見解を発表した。日本医師会は,「今あえて科学的根拠が確立していない統合医療が推進される背景には,混合診療を解禁し,市場原理主義に立ち返ろうという狙いがあるのではないかとの疑念を抱かざるを得ない。日本医師会はこのような流れに強く反対する。」と政府の動きに対して反対の立場を明確にした。厚生労働省は,統合医療推進の背景には予防医療重視の考えがあると説明しているが,医師会側は医療費適正化計画の下に始まった特定検診・特定保健指導の検証はこれからであり,その結果も慎重に見極めるべきとの見解を述べている。
西洋医学+補完代替医療=統合医療
統合医療は,西洋医学を退けたり,また補完代替医療を否定したりするものでもない。医療は最終的に患者が望み,また患者にとって有益なものとして提供されるべきであると考えられる。上記のような状況は日本の医療界にとって避けて通ることのできないものであるが,少なくとも健康な人,患者を含めた一般市民の声が反映される方向に向かうことを願っている。現在,本学では1年次生対象に「代替医療入門」という講義を開講しているが,今から4年前,6年制薬学部1期生を対象にした同講義の中で「これからの医療は統合医療に向かうにちがいない」と言った時には,正直4年後の今の状況は予想できなかった。